今回は2020年に医学雑誌「Annals of Onclogy」で発表された論文を紹介します。
【背景】
・催吐リスクの高いまたは中等度の化学療法に対する制吐療法のガイドラインが遵守されているにもかかわらず、最近の研究では、46%~57%が重大な吐き気を経験し、9%~37%が嘔吐を経験していることが報告されています。
・化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)は、テトラヒドロカンナビノール(THC)がCINVを減少させ、カンナビジオール(CBD)を追加することでが有効性および耐容性を改善する可能性があります。
・THCのみの医薬品には、めまい、鎮静、不安、精神運動障害など、用量に依存したさまざまな副作用があります。
・CBDは、中枢神経系に対するTHCの悪影響を打ち消すことができ、本来の抗不安作用を有しています。
・CINVの二次予防を目的とした、THC:CBDを1:1の割合で経口吸収させた製剤であるnabiximolsの小規模な二重盲検無作為化試験では、完全奏効率が22%から71%に改善し、患者の受容性が高く、副作用も管理可能であるなど、有効性が実証されている。
・今回の無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験は、難治性CINVの予防にTHC:CBD大麻エキスを経口投与し、化学療法を複数サイクル行うことを目的としている。
化学療法、抗がん剤の治療を受けている患者さんにとって、吐き気や嘔吐といった副作用との戦いでもあります。副作用で化学療法から離脱してしまう患者さんも少なくありません。
化学療法を行うと同時に、ステロイドの点滴による制吐剤なども副作用の防止のために投与されます。
化学療法のガイドラインに準拠した制吐剤に大麻製剤を追加で投与されるとどうなるか、THCだけでなく、CBDも追加することで、化学療法による副作用を軽減して安全に化学療法を継続できるかどうかを調べた研究になります。
【方法】
・対象の患者さんは、18歳以上、癌のステージを問わず、催吐性リスクが中等度または高度の静脈内化学療法を受けている悪性腫瘍患者さんで、少なくとも2サイクル以上の連続投与を受ける予定がある患者さんであった。
・患者さんは、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のPerformance Status(PS)が2以上である場合、不安定な心血管系疾患、物質使用障害、重大な精神障害など薬用大麻の禁忌がある場合、疾患に関連した悪心・嘔吐を経験している場合、経口化学療法を併用している場合、試験期間中に脳または消化管に対する放射線療法を受けている/受ける予定がある場合は除外された。
・3つのグループにランダムに分けられて2サイクルの間、下の表にしたがってTHC:CBD=1:1の割合で含まれた経口カプセルを1日3回摂取した。
化学療法投与の前日から化学療法の投与5日目までTHCとCBDを2.5mg含んだカプセルを1日3回内服します。1日のTHCとCBDの摂取量は7.5mgとなります。
【結果】
合計81人の参加者が無作為に割り付けられた。2サイクルを完了した72人が有効性解析に組み入れられ、同意を撤回しなかった78人が安全性解析に組み入れられました。
78人の患者さんの特徴ですが、女性が約80%と多く、乳がんの割合が33%でした。
化学療法の製剤として、シスプラチンやオキサリプラチンといった吐き気の強いプラチナ製剤がメインで、FOLFIRINOXといった非常に強力なレジメンの患者さんが多いのが目立ちます。
31%が鎮静、めまい、見当識障害などの中等度または重度のカンナビノイド関連有害事象を経験したが、参加者の83%がプラセボよりもカンナビスを好んだ。 THC:CBDに起因する重篤な有害事象はなかった。
完全奏効はTHC:CBDで14%から25%に改善し(、嘔吐の消失、救援薬の使用、著しい吐き気の消失、Functional Living Index-Emesis(FLIE)のサマリースコアにも同様の効果が認められた。
【考察】
THC:CBD=1:1で含んだの経口投与により、吐き気と嘔吐のコントロールに改善がみられ、追加の副作用は忍容可能であることがわかりました。
33%の患者さんがが鎮静、めまい、見当識障害などの中等度から重度のカンナビノイド関連有害事象を経験したが、85%の参加者がプラセボよりもTHC:CBDを好んでいますが、大麻治療による鎮静や精神活性作用、催眠効果が影響を与えたかどうかはなんともいえません。
本試験は、CINVに対する薬用大麻の無作為化試験としては初めて、背景となる最新のガイドラインに準拠した制吐薬との併用を行った試験です。
化学療法を行う患者さんが治療から離脱する1番の理由は副作用です。
いくら効果があっても副作用の症状が続けば継続することができません。
化学療法は副作用から体の体力も消耗してしまい、いかに継続できるかが鍵となります。
日本で癌に対して化学療法を受けられている患者さんの中で吐き気といった副作用でお悩みの方に、CBDを併用していただければ副作用が軽減される可能性があります。